ミミズの大量出現のなぞ を考え調べる
(5)まとめ  2008年6月

 これまでの調査で、ミミズの出現の理由を私(=ドラえまん)なりに納得できるところま で 整理できました。以下がその概要です。

   1999年から7年間、 数ヶ所でほぼ毎日ミミズの出現の観 察を行い、そのデータを整理してミミズの出現日の正確さがあらためてはっきりしてきました。データは省略しますが、ある種類のミミズは夏のある特定の日、 それは新月から22.3日に当たる日に他の日に比較して多く出現するということです。
他の場所や他の種類のミミズの観察とあわせ考えた最新の推定です。  
ミミズが道 などで沢山死んでいるの見かけることがあるがなぜか

 陸生のミミズでも色々な種類があり、棲む地中の深さによっても種類が 違います。そのちがいにより地表への現れ方が違っています。まず、数年間の観察で徘徊していたり干からびているミミズはフトミミズばかりでシマミミズなど のツリミミズはほとんど見ませんでした。
1.
表層棲息性のミミズの場合

 表層性のフトミミズは、昼 間は、ごく浅い土の中に いるか枯葉などの下にいる。夏の夜になると落ち葉の下を徘徊している。落ち葉の下は雨の有る無しにかかわらずいつも湿っているので雨にかかわらず落ち葉の 下を動き回っている。そのうちの何割かのミミズは落ち葉の下以外にも出る。 そこがアスファルト の歩道など日光や乾燥を避けられないところでは死んでしまう。したがって降雨の有無にかかわらず、夜間の活動の程度に応じ昼間、干からびたミミズを見るこ とがある。
 また、単純に生息地が乾燥したり高温になると、そこ から逃れようと移動 するがやはり、移動先がアスファルトの歩道や川原の砂地など日光や乾燥から逃れられないところでは死ぬことになる。
 人工的な花壇や植栽帯、側溝にたまった土中に住んで いる場合など水分が あるうちは気温が上昇しても土中の水分の蒸散により地中の温度は低めに保たれる。しかし、一旦水分がなくなると、とたんに温度は上昇し、一斉にミミズが逃 げ出してくる。やはり、表層に棲むミミズにこの傾向が強い。根こそぎ出現するため多いと感じるし、その後その場所ではミミズの生息数が少なくなり、ミミズ をしばらく見かけなくなる。 
2. 浅・深層棲息性のミミズの場合
 低地に棲む浅・深層性のフトミミズは、夏の夜には 多くのミミズが巣穴から体の一部を出している。そのうちの何割かのミミズは巣穴から離れ移動している。
 表層が湿っていたり湿度の高い夜には、普段より多く のミミズが移動す る。雨のときは巣穴に閉じこもっているが、雨上がりには湿っているのでより多く移動する。
 移動した先がアスファルトの歩道や川原の砂地など日 光や乾燥から逃れら れないところでは死ぬことになる。こういう条件は自然の状態よりはアスファルト歩道など人工構造物に多いため人目にもつきやすい。
 なお、ある種類の浅・深層性のミミズで確認できたこ とだが、彼らは乾燥 高温が続くと夜でも地表に出なくなり地中にとどまったままになるので表層に住むミミズが暑さと乾燥でやられるときも無事やり過ごしている。そしてある程度 の雨が降るとまた夜には地表に顔を出すようになる。

3.そしてもっとも不思議なことは、表層性のフトミミズの うちのある種のもの は、月齢にあわせ地表を徘徊することです。

毎年、夏のある一日、月齢22.3の日をピークに地 表を徘徊します。その種は、

 ヒトツモンミミズ Pheretima hilgendorfi (MICHAELSEN )
  ハタケミミズ Pheretima agrestis  ( GOTO et HATAI )
  アオキミミズ Pheretima aokii   Ishizuka,1999 
  フトシズミミズ Pheretima vittata  ( GOTO et HATAI )
などで、表層に住むミミズです。私の 観察では、当然にも このミミズたちは雨後に出現するとは限りませんでした。
 多くのミミズは一 個体にオスの生殖器官とメスのそれ をもっています。し かし、上記のミミズでは数パーセントしか雄性生殖孔(オスの生殖器官)をもちません。このことと一斉移動との関係は今のところわかりませんが他の雄性孔をもつ表層性のミミズ では月齢にあわせての徘徊が今のところ確認できていませんので無関係とは思われません。
 いずれにせよ森や 林、畑では大量に地表に出現しても 死ぬことなくほとん どのミミズが無事、地中や枯れ葉の下に戻れますが、街中の舗装された歩道や車道では乾燥と太陽光(紫外線)で死んでしまうのです。また、一年生なのに毎 年、変わらない個体数が見られることから移動するのはその地域に棲むミミズのごく一部であり、踏みとどまっているミミズのほとんどは単為生殖により個体群 が維持されているようです。一部では交接による両 性生殖も行われていることになります。
今後、解明すべき点がいくつかあります。
・ 新月をどのようにして知るのか
・ 新月から23日目をどのように数えているのか
・ なぜ、わざわざ23日目でなくてはならないか
・ どのような理由で出るのか
・ 他の種類のミミズで月齢と関係するものはいないのか
・ 鎌倉以外では、どうなのだろうか

 以上のよう にミミズの地表徘徊には数種の理由と現象があ ることがわかりま す。いままでの諸説でミミズの種類や生息域にまで言及し、長期に連続した数量的な変化を見たものはありませんでした。さらにミミズの一日の行動から、特に 夜間の活動から地表へ出る様子を観察したものもありませんでした。 また、炭酸ガスとの関係ですが、ミミズが多量の炭酸ガ ス に反応することは呼 吸・ヘモグロビンの働きから容易に考えられます。さらに実験でも確かめられています。さらに土中の二酸化炭素分圧が雨後に高くなることも測定すれば明らか になります。しかし、そのことと地表徘徊とを結び付けるには、いくつか明らかにしなければならないことや整理しなければなないことがあります。観察結果か らまず雨に関係なく出現するミミズがいること、このミミズは表層性のミミズで、表層の二酸化炭素濃度は地中ほどは土壌活性の影響をうけるとは思えない。ま たどの程度の二酸化炭素濃度で徘徊が誘発されるのかなどです。

以上を表にしてみると  

生活様式と 出現・徘徊の違い      ○あり ×なし
土中のどの位置に暮らすか 
表層
浅層・深層 
雨後の徘徊
×
巣孔
×
雄性孔  
ほとんどの個体で無い
極端な乾燥時の徘徊
×
夏の 月齢23をピークとした徘徊
×
ミミズの種類
ヒトツモンミミズ
フトスジミミズ
アオキミミズ
ハタケミミズ
ノラクラミミズ
フトミミズ(東京千代田)
  
 
ドラえまんの観察・調査結 果から得た
ミミズの徘徊行動の類別と 考えられる理由

 第 一は、雨後の日の徘徊です。
 東京都千代田区四谷駅付近など外濠沿い に住むのフトミミズ(未記載)やノラクラミミズなど浅層性または深層性のミミズで見られる行動で、昼間に徘徊し干からびて死ぬものもありま す。もともと、これらのミミズは普段、夜間は半身を地表に出していますが、雨後や地表面が濡れているときは巣穴から離れ移動していました。道路や裸地に出 て しまったミミズは人目につくし巣穴に戻れず、もしくは新天地を見つけられず死ぬというのが真相で種々の生物の呼吸がさかんとは思われない夜間でも徘徊して いることから炭酸ガスが原因ではないのではと思っています。また似たような雨後の行動は飼育しているシマミミズでも見られます。
 いずれにせよ、
浅層性または深層性のミミズのある種類は雨後など地表が湿っている時に巣穴から離れ、徘 徊することは間違いあり ません。それが、土壌中の二酸化炭素などの悪条件によるものか、目的があって出ているのかは今後の課題です。
 考えられる理由のひとつは、繁殖のための移動です。ミミズは皮膚呼吸をしているため、体表面の乾燥にはとても弱く、したがって地表面の水分が多いときに しか、無事には、移動できません。新天地を開拓するため雨後などに移動するのかもしれません。

  第 二は、生息土壌が高温かつ乾燥したとき表層性のミミズでみられる地 表徘徊です。
 気象条件として、高温でほとんど雨の降らない日が一週間程度続き、突然乾燥した日に見られました。じつは、このとき普段は気温より低い地中温度が上昇 し、気温と地中温度が逆転したのです。市町村レベ ル、場合によっては県レベルで一斉に路上に出て干からびてしまいます。ただ、暑い日が続いただけではなく乾燥した空気を持ち込む移動性高気圧などが通過し た時です。植え込みや校庭など人工構造の場所に棲む表層性のミミズで多く見られます。
 浅層性または深層性のミミズは、このような時期には地中 にもぐったままで地 表には出なくなり、徘徊を目にすることはありませんでした。

 第 三は、毎年、年に一度のある日、それは月齢22.3±0.7の日をピーク とした出現です。
 ある種のミミズは春から秋にかけて毎日のように路上を徘徊しますが、最も多く出る日は月齢が23日付近でした。フトスジミミズ、ヒツトモンミミズ、アオ キミミズ、ハタケ ミミズなど表層性のミミズで見られる行動です。今のところ鎌倉の一地域(二箇所)でしか確認していません。地形は山を切り通して できた道路でです。
 月の位置は位相角や月面の輝度で言え、下弦の日は位相角270度のときですが、月の軌道が真円でないことから月齢すなわち新月の位置から の日数は、ばらつきがあります。
 じつは、このミミズたちの出現は位相角=月の位置、では なく、月齢つま り新月からの正確な 日数を経て出現しています。22.3日、95%信頼区間0.7日の出現です。下弦付近ではありますが正確には月齢が問題となります。
 

 第 四、 晩秋から初冬(9月下旬から11月中旬)にかけての大量死です。体長10センチから15センチ程度の浅層生息性のヘンイセイミミズというミ ミズで、場所 によっては数百 匹単位で死んでいます。全国でもこの時期の大量死が何件か報告例がありますが、種類まで確認されていません。

 
 第五に は、最近の情報を総合していえる行動として、シーボルトミミズの春と 晩秋の集団移動があります。これはどうやら四国、九州でほぼ同時期に見られるが、年によって多少があるもようです。これこそ、大量移動で、 秋では、雨が降る時期に、素麺流しのようにミミズが山から集団で下りてくるそうです。

 第 六には、地震の前兆現象といわれている台湾で見られた大量出現  
( 「台湾集集地震(9/21)と嘉義地震(10/22)に伴うミミズ・千足動物異常現象出現のタイミング」 弘原海 清・原口 竜一)。
 生物が電磁波に感応すること、地震の前兆で岩石崩壊前に 圧電(ピエゾ)効果 により電磁波が発生することはわかりますが、ミミズ行動がこれによるのかは種類や生態が不明のためなんともいえないと思います。少なくとも私の観察では相 関はありませんでした。

第 七の現象
 台風など大量の雨が降り、その後急激に気温が上がったときにミミズが路上に沢山這い出していることがあります。
 ミミズが大量に生息する場所では、ミミズの排泄する糞尿やミミズや小 動物の死体の蛋白質が分解し、アンモニアになりますが、さらに微生物により分解され硝酸性窒素が生成されます。降雨及び高温によりこの生成が促進されま す。こうした環境下でミミズは呼吸により体 内で硝酸性窒素が亜硝酸性窒素に還元されて血液中のヘモグロビンと結合し、酸欠状態(「メトヘモグロビン血症」)となります。(
人間では確認されていますが、ミミズのメトヘモグロビン血症については、あくまで 私の仮説です。ミミズが、飼育床で亜硝酸性窒素について解毒の効果があることの研究がされていますが、ミミズ自体への影響についての研究は一部でされてい るようです。)
このためミミズは地表に逃れようと徘徊行動をとる。
 第一に挙げた通常の雨後や湿っているときの出現は夜間 で、元気な個体は昼ま で徘徊し続けます。
一方、第二の少雨・乾燥・高温時の出現は昼夜を問いませ ん。そしてこの第七の 出現は台風一過の日射の強いときなど多湿・高温になった昼間に見られます。
 ミミズの体内での酸欠状態(チアノーゼ)だけでなく、この場合、土中が嫌気的環境になりアンモニウムに変化する窒素固定がおこっているか もしれません。また、硫化水素の発生などバクテリアの活動と密接な関係があるように思われます。
 また、この現象はバーミコンポスト(ミミズコンポスト)で飼育しているシマミミズでは起こります。飼育床が嫌気状態になった場合ミミズは一斉に逃げ出し ます。

以上のように普段は土の中や枯葉の下にいるミミズが数十匹、あるいは数 百匹単位で地表を這っていたり死ん でいるのには様々な態様があり、原因も色々考えられます。そのときの条件やミミズの種類を特定して話す必要があります。

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