ミミズの大量出現のなぞを考え調べる
 (3)月とミミズ
月の満ち欠けでミミズが出現するメカニズムを考える
 
  月の変化や潮の満ち干きに、生物の生態が関係しているのは多くあります。
 海ガメやフグの産卵、アカテガニの放仔などです。ひよっとしたらミミズの挙動も月の満ち欠けに連動しているのかもしれません。
  ミミズの属する環形動物門には他にゴカイ類とヒル類があります。イソメ、ゴカイ、シリスなどのゴカイ類(多毛類)が主流でその一部は退化または分化が止まったり、一部が陸上に上がって貧毛類(ミミズ)になりその一部が淡水に入りヒル類になった説があるようです。
 イトメやイソメの月の位相と関連した生命現象について今島実著 環形動物多毛類 生物研究社 1996に詳述されていました。以下がそれです。
 
 多毛綱ゴカイ科の環形動物で、生殖のために遊泳する生殖型個体のうち日本にいるものをバチという。ウキコ、ヒル、エバともいう。イトメのバチを日本パロロ(英名 Japanese palolo)ともいう。イトメは、砂泥中で生活している個体が成熟してくると、10〜11月の大潮の夜に雌雄の体の前方1/3がちぎれ、生殖物(雄は精子を、雌は緑色の卵)を充満させて泳ぎだし、生殖群泳する。 
   その他のゴカイの生殖時期は種によって異なり、新月後と満月後の数日 間に大きな群泳が見られるが、月齢、潮位、天候などに大きく影響をうける。 
  また、イソメ(多毛綱イソメ科 Eunicidae に属する環形動物の総称)は、日本ではイワムシ、オニイソメなど19種が知られている。 
   Palola siciliensis は本州中部より熱帯域のサンゴ礁にすむが、生殖時期になると大量の生殖型個体が群泳。サモア、フィジー、ギルバート諸島では毎年10月と11月の満月から8日目と9日目の日の出前の1〜2時間に生殖群泳をする。泳ぎだす部分は体の後方の3/4くらいで、泳ぎながら生殖が行われる。このように生殖群泳する虫を太平洋パロロという。 
   大西洋でも西インド諸島で E. schemacephala が7月に生殖群泳をするが、 これを大西洋パロロと呼んでいる。 

 別の資料では、フロリダ地方の浅海底に生息するイソメ科の Eunice fucata は6月下旬から7月下旬の下弦の月のころに生殖群泳を行い,これは大西洋パロロ palolo という、とありました。
 その他、生殖活動に月周リズムのある生物には、南カリフォルニアのトウゴロウイワシ科のグルニオン grunion という魚や、日本にいるクサフグ、その他サンゴ、ウニ、イタヤガイ、ゴカイ科 Platynereis (ツルヒゲゴカイ)等脚類のExcirolana(ヒメスナホリムシ)など多数存在しています。

 いずれにせよ、生殖活動に月周リズムのある生物では、雌雄の配偶子の出会う確率を高めているといえそうです。
 果たしてミミズの場合はどうでしょう。
 
 

【ミミズは何に反応しているか?考えられるのは】

@光(可視光線、紫外線を含む)
A音(超音波、低周波を含む)
B振動
C電波・電流(宇宙線を含む)
D磁場・磁界
E放射能・電離放射線(ラドンガスなどを含む)
F臭い・ガス
Gフェロモンのようなもの
H気圧
I重力(潮汐力を含む)
J風
K湿度・土中水分量
L温度
MPH

月齢によって変化するものを推定してみると

@潮位
A重力変化?
B微弱振動・プレートの上下?
C夜中の明るさ
D地下水位?
E地表近くの土中のメタンガス濃度?
 
 

【月に関連した周期の生態を持つ他の生物からの類推】
 猿蟹(サルカニ)合戦のモデルにもなっているアカテガニ 
Chiromantes haematocheir は、夏の7〜8月期の大潮の日付近で、大挙して山から下りてきます。そして満潮の時に子供(幼生)を海に放ちます。このような15日ごとの周期性を半月周期と呼ぶそうですが、この周期性は月の明るさが関係しているとのことです。また、海にいる牡蠣(カキ)は、満潮になると殻を開くそうですが、あるカキを当初住んでいた所から別の場所に移動し、外界から遮断した環境においたところ、はじめは当初住んでいた所の干満のリズムで殻を開いたり閉じたりしていたのが、やがて新しい所の干満のリズムにあわせて殻を開くようになるそうです。
 ある種のミミズも、この月明かりを引き金として15日周期で地表に出現していたのです。もちろん曇りや雨の日もありますが、晴れている日に月の光を浴びて、体内時計の補正をすればよいのです。
 夜中に、穴から半身だけ出て何をするでもなく昼寝ならぬ夜寝をしていたのは、実は月光浴をしていたようです。こうしてミミズの種類によって半月や満月のころがわかりそれぞれの時期に出歩くということが考えられます。

アカテガニの生殖行動と月明かりの関係についての論文は以下があります。
Reference: Biol. Bull, 174: 126-138 (April, 1988) 
Received 8 July 1987: accepted 25 January 1988. 
Entrainment of Tidal and Semilunar Rhythms by Artificial Moonlight Cycles 
M. SAIGUSA 
Okayama University,  College of Liberal Arts and Sciences, Department of Natural Sciences, 
Tsushima 2-1-1, Okayama 700, Japan 

 西ヨーロッパの潮間帯に棲むウミユスリカという虫の羽化は大潮の日の夕方だけにおこるそうです。
 これについてドイツのD・ノイマンNeumannは人工月光を与える実験で、この虫が概日時計と月の満ち欠けを読むことにより羽化すべき時刻を決めていることをつきとめたそうです。(富岡憲治 時間を知る生物 1996 裳華房ISBN-4-7853-8634-7)
 この虫も、アカテガニ同様、月光を頼りにしているようです。

 月周リズムを持つ生物は海産だけではなく陸生の動物にも見られるそうです。
上記のアカテガニの他、昆虫の飛翔(ひしよう),鳥のさえずり、マレー半島の森林にすむネズミは満月前に最も高い受胎率を示すそうです。

【ミミズの眼】
 北隆館の新日本動物図鑑によれば、1896年と1925年に
Hesse と言う人がLumbricidae科(ツリミミズ)のミミズを研究し、表皮細胞の基底部に感光細胞があることを発見したそうです。
 感光細胞の分布は口前葉に平均57、第一節(口前葉をのぞいた部分)に26、第二節に10、第三節に7、第四節に2、第十一節に1、最後節に14位あり、腹面には無く背面正中線と側面とに分布しているそうです。
 つまり唇と言うか顔と言うか、ともかく最前部に感光細胞が多く分布し、光に対する反応も前のほうが大きいそうです。たしかにミミズを見ていると光を当てたりした場合頭かくして尻隠さずということがよくあります。
 ミミズは光の強弱でその行動を使い分けていて、明暗の識別、強弱の判別能力があり、強度の光に対しては負の趨光性があり、適度や弱い光に対しては正の趨光性があるとのことです。つまり夕方の光度では正の趨光性であり、穴から顔を出すわけです。そして私の推論ですが、夕方から夜の薄暗い中でミミズは光の強弱つまり月の明るさを判別し半月周期の行動を取れると考えられます。
【ミミズの走性】
 動物の行動には何らかの効果器を使って走性・反射・本能・学習によるもの・知能によるものがあるそうですが、このうち何らかの刺激に対して、それに向かうか遠ざかるかという行動である走性を考えてみました。
ミミズで知られている走性には、光、重力、電気があるようです。
光では強い光では負の走光性、弱い光では正の走光性、重力には正の走地性、電気では陽極への正の走電性があるそうです。
  特に気になるのは、走地性と走電性です。走性があるということは何らかの効果器、感じる器官・組織があるのだから、その変化も捉えられるのではないかということです。
 月の位置によって潮汐力が変化しているわけで、この周期的変化を感じることが出来るのではという考えが浮かびます。また、最近、月の位置により電磁場が変化しているという説もあるそうで、そうなると走電性も捨てがたい行動です。また、地震や雷に対する行動もまんざらないことではないかもしれません。
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